そして滝壷へ 11/30

 

山2つ越え、ここからさらに5キロ先の目的の滝を目指す。
2時間もすれば日が暮れカメラは機能しなくなる。
そしてさらに1時間後には目が見えなくなる。
そんなギリギリの時間の中、転げ落ちるように森の中を下っていく。

徐々に辺りが暗くなり始めたころ、遠くで岩間に響く轟音が。
落ち葉の上を滑りながらひたすら音のするほうを目指す。
2時半、森が開け、幅5メートルほどの川を渡ったところでついに出会えました。

観光客の決して来ることの無い山奥で力強く永遠と流れる滝。
周りはコケで覆われた緑の世界が広がる。
重い荷物を投げ出し、三脚とカメラを持って川の中を夢中で滝壷に向かう。
飛沫が容赦なく降りかかる。
その迫力は人間の想像力を凌いでいる。
ただただ、目の前の光景に畏怖の念を抱く。
生きているって素晴らしい!

水ってこんなに冷たく、音ってこんなに大きく、岩ってこんなに硬く、苔ってこんなに綺麗だったんだ!!

疲れを癒し、泥だらけの服と靴を洗い、喉を潤す。
そして残った力を使い切って山から脱出。
暗闇の覆う40分前でした。

約10時間、湧き上がる疑問、恐怖に襲われながらの旅でした。
まさに孤高、登頂開始から下山まで一人も会わない孤独な戦いをしてきました。
冬山で土砂降りの中を登ろうとするバカは私一人だけだったようです。

2日目、山道、獣道を24キロ歩き続けた自分自身をちょっと誉めてあげたい。

本当は山でもう一泊していきたかったけれど食料もバッテリーもメモリーも尽きてしまったので
そのまま電車で3時間、人でごった返す街に戻りました。

 

 

孤独な戦い 11/30

 

朝6時に起き、御主人にコーヒーを一杯頂き出発。
外は相変わらず雨。
ここから2つの山を越え、4つの滝を周り、真っ暗になってしまう16時までには脱出する予定。

山道を登り始めて2時間、まずは一つ目の滝に到着。
標高が高くなり、冷たい雨が降り、当然レンズは曇って真っ白に。
まだ日が昇らない暗い中で、曇ったレンズでのスローシャッター撮影はすべてのものを白くソフトに包み込む。
頑張って崖の先に三脚を立てて撮影しましたが、まともな絵を得るのは無理でした。

9時、時間を過ぎてもバスが来ない。
唯一の林道を走るバスで山腹まで移動するはずが来る気配が無い。
バスどころか車は朝から1台も見かけない。
携帯はとっくに圏外になり、民家も無い、人もいない、確認する手段は何も無い状態に陥る。

山頂まで約9キロ。
待っていても仕方がないので徒歩で山道を登り始める。
どこまでも永遠に続くような山道をただひたすら登り続ける。
なぜこんなことをしているのか、湧き上がってくる疑問。
寒さと疲労感。
何より、歩いて上る時間のロスにより山の中で日が暮れて遭難するのではないかという恐怖。
こんな気持ちの堂々巡りを繰り返しながらも一歩一歩登っていた時、突然視界が開けました。

視界の下を流れる雲の海。
山肌に沿って昇っていく雲たちは明るくなり始めた太陽に照らされて白く輝いていました。
あまりの美しさ、壮大さに夢中でシャッターを切っていました。

11時、予想より大幅に遅れて山頂に到着。
はるか下を覆う雲海。
視界をさえぎるものが無くなり、容赦なく冷たい風が叩きつける。

ここから獣道のような場所を通り2つ目の山を越える。
降り続いた雨で道は川のようになり、その中を進んでいく。
積もった落ち葉に何度も滑り落ち全身ドロドロ。
日没が迫っているので休むことも出来ず、足の限界を感じながらも何とか1時過ぎには登頂。

この広大な大地にたった一人きり。
もしも骨折したら誰も助けにきてくれない、もしも日が暮れてしまったら、もしも足を滑らせ崖から落ちたら…
計算外の時間ロスから無茶だと思いつつはじめてしまった挑戦に焦りと恐怖を感じながらも、確実に一歩一歩前進し続ける自分に驚き感心してみたり。
こんなに頑張れるんだ。

 

 

日光という街

 

足利銀行の経営破綻、日光から帰ってニュースで知りました。
日光の街の不況は肌で感じてきました。

静かに魅力を発し続ける寺社のそばに立ち並ぶ、コンクリートで作られたアパートのような巨大温泉宿。
魅力的ですか?
大量生産された安っぽい置物や日光と焼き印しただけの饅頭の並ぶ土産物屋。
魅力的ですか?

私の旅にはホテルもコース料理も観光案内も車もタクシーも要らない。
この街は自らの持つ魅力を殺してしまった。

 

 

人の温かさ 11/29

 

朝、いつもと同じ時間に起きる。
ここから非現実的な一日が始まる。
今回の目的は日光の山奥にある、一般にはほとんど知られていない滝。

まずは目的の山の麓で泊めてもらえそうな場所を電話であたり、3件目で部屋の用意だけだったらということで宿を確保。
カメラ2台、ビデオカメラ、三脚、防寒着をカバンに詰めて出発。

3時間後、土砂降りの日光に到着。
こんな天候に観光客の姿は無く、ひっそりとした土産物屋が並ぶのみ。
とにかく寒く、暗く、静まり返った街。
まずは駅で地図を手に入れ計画を立てる。
雨と霧で視界が極端に狭く危険を感じたため、山には入らず東照宮を目指し歩きはじめる。

東照宮。
15時前に着いた時にはすでに日が傾き、いっそう暗くなっている。
国宝の東照宮には漏電の危険から灯りが無い。
そんな場所に当然観光客はいない。
雨が砂利に打ち付ける音だけが境内に響き渡っている。
石段を紅く黄色く染める落ち葉、椛、銀杏。
暗闇にぼんやりと浮かぶ朱色の鳥居、灯篭、五重塔。

あまりの寒さと降り続ける雨でずぶ濡れの一眼レフのレンズ内は曇り、デジカメは誤作動を繰り返す。
それに加え、手の震えと光量不足で、この圧倒的非現実的空間を残すことは出来ない。
雨、風、木の匂いを全身で感じ続ける。
徐々に身体がこの空間の一部に同化していく感覚に襲われる。

17時、ラーメン屋のおばあちゃんから聞いた温泉に向けて出発。
近いからと言われて歩き出したのに、いつまでたってもそれらしきものは見当たらない。
真っ暗な川沿いの道を4キロほど歩いたところでやっと灯りを発見。
無事温泉にたどり着けました。
そこは地元の人しか利用しない温泉らしく、お爺ちゃんお婆ちゃんのものすごくローカルな話が飛び交っていました。

温泉で温まった身体に相変わらずの土砂降りの中、4キロの帰り道と宿への山道が待っているのでした。

地元のお年寄りの温かさに触れた1日目、合計14キロ歩きました。

 

 

想い 11/28

 

自分探しの旅、なんてかっこ良いものじゃない。
ただ考える時間と場所が欲しいだけ。
ただの現実逃避かもしれないし、自己の再確認になるかもしれない。

東京は時間の流れが速すぎ、人が多すぎる。
少しこの街から離れてみる。

 

 


[ R E T U R N ]


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